投稿日:2007年7月23日|カテゴリ:コラム

最近、テレビで有名俳優を使ったCMで「同じ成分、同じ効果、値段が安い」を売り文句に、ジェネリック医薬品の広告が目につくようになっています。この背景には国が率先してジェネリック医薬品の普及、使用推進を進めていることがあります。
ジェネリック医薬品は日本語では後発医薬品と言います。医薬品の商品名ではなくて科学的な一般名をさすgeneric nameからとった言葉です。後発というくらいですから、当然、先発医薬品というものがありますが、今までは医薬品と言えば先発医薬品を指していたので、ことさら先発医薬品という言い方はしませんでした。
医薬品は人間の手によって発明、開発されるものですから、その薬物を発明した人や企業が特許権をもっています。ですから、その薬は特許権を持っている会社以外では製造・販売することができません。
特許権は原則として特許出願日から20年で消滅します。つまり、特許を申請した日から20年間はその薬を開発した会社が独占的に製造できるというわけです。
ところが、開発した化学物質を実際に人体に適用できる医薬品として完成させて、厚生労働省から製造・販売の許可を得るためにはいくつもの過程を経なければならないために、気の遠くなるような時間がかかってしまいます。
特許申請した多くの化学物質は医薬品として製造・販売の認可がおりる前に、20年たってしまいます。そういう場合、特許権の存続期間は最長で5年間延長できます。
したがって、多くの医薬品は実際に患者さんに使うことができるようになって5年すると、開発した会社の特許権が消滅してしまうのが現実です。そうなると、特許使用料を払わないで、特許の内容を利用して製造した、同じ主成分を含んだ医薬品を製造することができるようになります。これがジェネリック医薬品(後発医薬品)です。
たくさんの、名前も聞いたことのないような小さな製薬会社がこぞって製造・販売を始めます。開発した会社の特許権が切れると同時に世の中にゾロゾロたくさん出てくるので、ジェネリック医薬品のことを通称「ゾロ」と言います。
病院や薬局の会計で支払いをする時に、貰う薬の種類によって、ずいぶんと支払額に差があることは気付いておられると思います。実際に薬の値段は1錠5円くらいのものから、何百円のもの(特殊な薬はもっと高い)まで幅が広いのです。
この値段は病院や薬局が勝手に決めているのではありません。厚生労働省が決定しているのです。日本は自由主義経済のはずですが、こと医療に関しては薬の値段はおろか、医師の技術料などすべて国が決定しているのです。医療に関しては社会主義経済なのです。
値段だけではありません。保険診療の場合、病気によって使える薬の種類や、手術のやり方、消毒の回数まで厚労省(社会保険庁)の役人が決めているのですが、このことはまた別の機会にお話します。
さて、新薬の開発から販売に至るまでには何十年という歳月を必要とすることはお話しました。時間だけではありません。研究や開発にかかる費用も莫大な額になります。
こういった開発費を考慮して、厚労省はその薬の値段(薬価)を決定します。したがって、画期的な新薬が開発されて効果抜群で副作用が軽微であるということになれば、当然ながらその医薬品の薬価は高くなります。それなりの薬価でなければ、営々と研究・開発してきた製薬会社の労は報いられずに、会社は潰れてしまいます。
一方、後発医薬品メーカーはどうでしょう。研究や開発には一銭もかかりません。特許使用料も要りません。先発医薬品の作ったレシピにしたがって製造するだけでよいわけですから、必要経費はきわめて少なくてすみます。このためにジェネリック医薬品の薬価は低く設定されます。
今、政府先導で進められているジェネリック医薬品の使用拡大路線は、総医療費の削減を至上命題とした経済的論理から出発しています。
さてジェネリック医薬品が、CMで公言しているように、本当に「同じ成分、同じ効果」であれば、総医療費が削減されるだけでなく、患者さんの自己負担も少なくなるのですから、まことに喜ばしいかぎりです。よりよい効果、より安全な薬の開発に心血注いできた大手の先発品医薬品メーカーには申し訳ありませんが、どんどんジェネリック医薬品に切り替えていくべきでしょう。
ところが、大事なところに巧妙な嘘があるのです。しかも、国民に安全で質の高い医療を保証するべき国が経済優先で、この嘘を黙認している。いや、むしろ嘘を承知でマスコミなどを通じて強引に推進しているのです。
日本のジェネリック医薬品はけっして「同じ成分で同じ効果ではありません」。
同じなのは薬の中にはいっている主成分だけです。それ以外の成分は同じではありません。
1錠の薬の中には主成分だけが入っているわけではないのです。わずか数mgあるいは数百mgの主成分だけでは、飲みやすい形の剤型は作れません。
大部分は主成分以外のそれ自体は薬理学的な効果のない賦形剤と呼ばれる物質です。主成分とこの賦形剤をうまく組み合わせて、混ぜ合わせて、一つの薬ができあがっています。
ジェネリック医薬品が「同じ成分」と言っているのは、あくまで主成分が同じだといっているのであって、賦形剤も含めてまったく同じではないのです。
賦形剤なんて薬理効果がないんだから、どうでもよいように思われるかもしれませんが、そうではないのです。ほとんどの薬は小腸に運ばれてはじめて血管内に吸収されて全身をめぐり、効果を発揮します。
この際に、主成分以外の物質の配合や混ぜ方、作り方で腸からの吸収率などが異なってきて、実際の効果が違ってくるのです。
また、先発医薬品はだてに十数年の開発期間を費やしているわけではないので、物理的化学的性質や規格・試験方法、安全性、毒性・催奇性、薬理作用、吸収・分布・代謝・排泄、臨床試験など数多くの試験を行い、20を越える資料を揃えて、はじめて認可されています。
これに対してジェネリック医薬品はコバンザメ商法ですから、主な試験は先発医薬品で済ませているという認識の下に、主成分が確かに先発品と同様の効果を持っていることを証明するだけで、きわめて重要だと思われる、7つの毒性試験が全て免除されています。
実際に、「同じ効果」とうたっているジェネリック医薬品に代えたところ、前飲んでいた薬よりも効かなかったために、また先発医薬品に戻してもらう患者さんは少なくありません。
さらに、患者さんたちが薬局で支払う金額が驚くほど安くなるかのような幻想を抱かせる広告をしていますが、その差は予想しているほどではありません。
年金同様、破綻寸前の医療保険を維持するために、総医療費を削減する努力は大事なことですが、一番大事なはずの、薬の効果や安全性などについて、巧妙な嘘をついてでも経済優先の医療を先導する国の政策には憤りさえ感じます。
また、安いことがいいことだという政策を強引に推し進めるならば、多くの製薬会社は、今後は、すばらしい薬を開発して人類の健康に寄与しようという意欲をなくしていくでしょう。
さらに、社会保険庁関連の再就職先が先細りの厚労省の役人が、続々と後発医薬品メーカーに天下りしているという、国民を愚弄しているとしか思えない腹立たしい情報も耳にします。

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